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2011年7月15日 (金)

ストックホルムの密使

Images1 佐々木譲氏の1994年の作品。いわゆる「第二次世界大戦三部作」の完結編。
前作から少し間が開きましたが、楽しく読ませてもらいました。執筆の方も前々作と前作は1年の間隔で発表されているのに、この作品は5年の間隔があります。大作であることも影響していますが、やはりこの三部作をどう締めくくるか、かなりの葛藤があったのかも知れません。第一作の主人公である安藤大尉の登場などは、その一例ではないかと思います。本編の主人公である森四郎に、妹あての手紙を託すなど、悪く言うとうまくまとめたような部分が散見します。前作で活躍した秋庭、磯田のコンビの活躍もそう、前作からの思い入れがなければ、磯田の最期に涙することはなかったように思います。ただ、磯田でなくてもよかったことも事実。そこらは単独の作品としても成立させて欲しかったかなとも思います。

あらすじを簡単に。ストックホルムで諜報活動をしている大和田武官は、様々な重要な情報を、ポーランド人のスパイ、ヤン・コワルスキから入手し、日本に送っていますが、大本営の反応は鈍く、自身の情報が上層部にきちんとフィードバックされているか、疑うようになります。ソビエトの対日参戦情報も、かなりの精度の情報として、暗号化し日本に送りますが、結局、途中でうやむやにされてしまいます。その後、原爆の開発の情報に接し、もう一刻も時は無駄にできないと判断し、自分がストックホルムから送る電報とは別に、スイスのジュネーブの大使館からも同様の情報を送るべく、密使として森四郎にその任を託します。ただ一般人である彼一人では不安と判断し、コワルスキ本人も同行することになります。スイスでその任務を果たせなかった2人は、アメリカ軍に追われ、モスクワへ逃亡、そこで四郎の昔馴染みの歌手石坂洋子と出会い、慰問劇団に化けて、シベリアから満州へ。その途中でコワルスキは一命を落としてしまいますが、2人は関東軍に保護され、東京に移送されます。結果は、誰もが知るように、原爆が広島、長崎に投下され、ソビエトは対日戦に参戦。現在も北方領土がロシア領となったままです。

Images2 最後まで戦うことを主張する軍部。それを必死で食い止めようとする海軍の一部の人々。ヨーロッパでの様々な情報を分析し、日本に送る諜報部員達。空襲におびえ逃げ惑う一般の人たち。日本の中でも様々な人々の姿が描かれ、天皇を頂点とする統帥部の横暴さ、無能さが浮かび上がってきます。一方、海外では、、、。アメリカは原爆の使用先として日本を想定し、あえて厳しい降伏条件を設定、それでいながら、共産主義の勃興を恐れ、原爆投下後、即時の降伏を要望。一方のソビエトは、対ドイツ戦争終了後、ヨーロッパの戦力をシベリアに移動しつつ、対日不可侵条約の破棄のチャンスをうかがいます。結局日本は、2個の原爆が投下された後、ソビエトが参戦した後に、ポツダム宣言を受諾。降伏があと10日早ければ、すべてのことを回避できたのかと思うと、なんともやるせない気持ちになってしまいます。

この物語は、大きな時の流れに逆らおうとした大和田武官と、その意志を継いだ森四郎、ヤン・コワルスキの奮闘をいきいきと描いていますが、歴史とのからませ方が見事。特に、関東軍に何日か取り調べられた後、国内に移送され、その途中で広島の悲劇に立ち会うところなどは、構成としては見事だと思います。

この三部作を通して登場する、山脇とその妻真理子は、前二作よりも存在感はあるものの、歴史の流れの中で、大きな喘ぎを見せる主人公たちとは比べ物にはならず、ちょっと残念な気もしますが、やはりこの三部作の主人公は歴史そのものなんでしょうね。ややもすると歪めて、あるいは不明瞭なままに触れられて来たこの戦争について、我々はもっと知り、もっと学ぶべきであるということを痛感させられました。
できれば、作者には、ノンフィクションで、第二次世界大戦の本を出してほしいと思います。

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コメント

なつかしい題名、ストックホルムの密使を発見しました。
当方ストックホルム在の50代女性で主人も日本人です。
15年程まえにNHKテレビで同名ドラマの撮影があり、スタッフ、キャストの方々が
ストックホルムに来られました。
コーディネイトをした知人から主人(運送業)に皆さんの送迎等を依頼されスタッフに加えて頂きました。そしてドラマの中でも勝野洋さん演じる外交官の運転手として出演となり楽しい日々を過ごさせて頂きました。
私も日参してドラマ作りというものを見学した貴重な思い出となっております。

すごい経験をされましたね。このドラマは見ていないんですが、ぜひ再放送されることを祈っています。ストックホルムは、今の時期は、寒いんでしょうね。東京は例年に比べると暖かく、まだコートなしで通勤しています。

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